本コラムでは、「3Dプリンターの金型費用」を2つの視点(①3Dプリンターで簡易型(樹脂型/金型)そのものを作る費用、②金型を作らずに3Dプリンターで直接造形する費用)から整理し、従来の射出成形との費用比較・損益分岐点の考え方、そして費用を抑えるコツまでを解説します。個人の方から、小ロット生産・量産移行を検討する製造業の方まで、判断に役立つ内容です。
「3Dプリンターの金型費用」を正しく理解する
「金型費用」には2つの意味がある
「3Dプリンターの金型費用」という言葉には、大きく2つの意味があります。1つは「3Dプリンターを使って簡易型(樹脂型/金型)そのものを作るときの費用」、もう1つは「金型を作らずに3Dプリンターで製品を直接造形する場合の費用」です。
この2つは目的も費用構造もまったく異なります。前者は「射出成形の型を安く早く用意したい」というニーズ、後者は「そもそも型を作らずに少量だけ欲しい」というニーズに対応します。どちらが得かは、作りたい数量と用途によって変わります。本コラムでは両方を順に解説し、最後に費用比較で整理します。
従来の金型(射出成形)の費用相場
従来の金型(射出成形用)の費用相場は、量産金型でおおむね数百万円〜数千万円、簡易金型で数十万円〜300万円程度です。加えて、成形1個あたりの費用(成形費)が数百円〜数千円かかります。
金型は目的によって大きく2種類に分かれます。
- 量産金型:焼き入れした高硬度の鋼材を使い、数十万ショット以上の安定した大量生産に耐える金型。冷却機構やガス抜きなど構造が複雑で、費用・納期ともに大きくなります。
- 簡易金型:試作や小ロット(数十〜数千個程度)向けに、アルミ合金やZAS(亜鉛合金)、樹脂などで簡略化して作る金型。費用は量産金型のおおむね50〜70%が目安とされ、短納期で製作できます。
つまり、少量しか作らないのに量産金型を用意すると、1個あたりのコストが跳ね上がります。「作る数量に対して、どの型を選ぶか」がコスト最適化の出発点です。
なぜ金型は高いのか(費用の内訳)
金型が高額になる理由は、費用の大半が「作る個数に関係なく最初にかかる初期費用(イニシャルコスト)」だからです。金型価格は一般に、材料費・設計費・加工費・検査費・梱包輸送費・利益などで構成され、なかでも設計と精密加工の工数が大きな割合を占めます。
このイニシャルコストは、製品を1個作っても100万個作っても基本的に変わりません。そのため大量生産では1個あたりに薄まって割安になりますが、少量生産では1個あたりの負担が極端に重くなります。ここに、3Dプリンターが費用面で有利になる余地があります。
3Dプリンターで簡易型(樹脂型/金型)を作る費用と方法
3Dプリンターで作れる「型」の種類
3Dプリンターで作れる「型」は、主に次の3タイプです。用途と数量に応じて使い分けます。
- 樹脂型(3Dプリント製の簡易金型):耐熱性のある樹脂で型を直接造形し、小型射出成形機で成形するタイプ。簡易金型の中でも最も低コスト・短納期に作れます。射出成形のほか、ブロー成形の型としても実績があります。
- マスターモデル方式(真空注型・シリコン型):3Dプリンターで製品形状(原型=マスターモデル)を高精度に造形し、それを元にシリコンゴムで型を作る「真空注型(シリコン型)」や、電鋳(ニッケルなど)で反転する方式。同じ形状を数個〜数十個複製したいときに向きます。
- 入れ子・治具(ジグ):金型に組み込む入れ子や、組み立て・検査に使う治具(ジグ)を3Dプリンターで用意するタイプ。複雑な形状の入れ子は、樹脂だけでなくアルミやステンレス(SUS)の金属造形で製作する場合もあります。



費用相場と製作の流れ
3Dプリンター製の樹脂型は、従来のアルミ・鋼の金型(1個数百万円〜)に比べて型の製作費を大きく抑えられ、内容によっては数千円〜数万円程度で1つの型を用意できるケースもあります(型のサイズ・造形方式・機械により変動します)。ただし1つの樹脂型で成形できるのはおおむね数十個程度が目安で、より多く作りたい場合は同じ型を複数プリントしてロットを増やす方法がとられます。
一般的な製作の流れは次のとおりです。
- 製品形状から型構造(上下割り、ゲート・ランナー、抜き勾配など)を設計する
- 3Dプリンターで型を造形する
- サポート除去・合わせ面の仕上げを行い、型を組み立てる
- 小型射出成形機に型をセットし、樹脂を射出して成形する
- 成形品を取り出し、ゲート・バリを除去して完成
透明な材料で型を造形すれば、樹脂が型の中を流れる様子を確認できるため、量産金型を作る前の充填シミュレーションにも役立ちます。
型に必要な耐熱・強度・精度と注意点
3Dプリンターで簡易型(樹脂型/金型)を作る最大のメリットは、型の初期費用と納期を大幅に圧縮できることです。一方で、型そのものにも満たすべき性能があり、材料選びには注意が必要です。特に射出成形の型では、次の3点が重要です。
- 耐熱性(成形材料より高いこと):型には、流し込む(射出する)樹脂よりも高い耐熱性が必要です。型の耐熱が成形材料より低いと、射出時の熱で型が変形してしまいます。成形したい樹脂の射出温度に対して、余裕のある耐熱材料を選びます。
- 強度(型締め圧に耐えること):射出成形では型を圧力で締めて樹脂を流し込むため、その型締め圧力に耐える強度が必要です。強度が足りないと、型が変形・破損します。
- 精度(合わせ面がきれいに合うこと):型の合わせ面がきれいに合う精度がないと、樹脂が漏れたりバリが出たりして、うまく成形できません。造形後に合わせ面やゲートを仕上げる工程も品質を左右します。
加えて、3Dプリント製の樹脂型には寿命の制約があります。扱いやすい樹脂(TPE・PP・PEなど)で射出した場合の目安は1つの型でおおむね数百個程度で、PAやPCなど射出温度の高い樹脂を使うと型の劣化が早まり、寿命はさらに短くなります。金属型のような数万〜数十万ショットの耐久はありません。
そのため3Dプリント製の樹脂型は、「量産の前段階の検証」や「小ロット生産」に向いています。より高い耐熱性・強度が求められる場合や、複雑な形状の入れ子などは、アルミやステンレス(SUS)の金属造形で型・入れ子を作る選択肢もあります。数万個以上を安定生産したい場合は、従来の金型が適しています。
金型の修正・補修にも使える
3Dプリンターは、新しく型を作るだけでなく、既存の金型を修正・補修する場面でも活用できます。修正は「どの方向に形状を変えるか」で適した工法が変わります。
- 削り方向の修正(型を削って寸法を広げる・彫り込む):従来の切削加工で対応できます。
- 盛り方向の修正(型に肉を足す・形状を足す):切削では対応できません。この場合、足したい部分だけを3Dプリンターで「入れ子」として造形し、型に組み込んで修正する方法が使われることがあります。
盛り方向の修正は従来、溶接肉盛りなどの手間がかかりましたが、部分的な入れ子を造形して差し替えることで、修正の選択肢が広がります。
金型を作らず3Dプリンターで直接造形する費用
直接造形の費用の考え方
金型を作らずに3Dプリンターで製品を直接造形する場合、費用は「初期費用(型代)がほぼゼロ」「1個あたりの単価が数量にかかわらずほぼ一定」という構造になります。
3Dプリントの1個あたりの費用は、主に次の要素で決まります。
- 造形物の体積・サイズ(使用する材料の量)
- 造形方式・材料の種類(光造形、粉末造形、金属造形など)
- 後加工の有無(サポート除去、研磨、塗装など)
- 納期(特急かどうか)
型を作らない分、初期投資が不要で、データさえあればすぐ製造に着手できます。実際の費用は形状によって変わるため、見積りで確認するのが確実です。
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直接造形が向いているケース
直接造形は、次のようなケースで費用面のメリットが大きくなります。
- 試作品や機能確認用のモデルを1個〜数個だけ作りたい
- デザイン検討で何度も形状を作り直したい
- 数個〜数十個程度の小ロットで、金型を作るほどの数量ではない
- 複雑形状・中空形状など、金型では作りにくい部品を作りたい
- とにかく早く現物が欲しい(型製作の期間を省きたい)
逆に、同じ形状を大量に作る場合は、1個あたりの単価が下がらないため、途中から金型の方が有利になります。この分岐を次章で整理します。
【比較】3Dプリント直接造形 vs 金型(射出成形)
費用構造の違い
3Dプリント直接造形と金型(射出成形)の最大の違いは、費用が「初期費用」と「1個あたり単価」のどちらに寄っているかです。
| 比較項目 | 3Dプリント直接造形 | 金型(射出成形) |
|---|---|---|
| 初期費用(型代) | ほぼ不要 | 数十万〜数千万円 |
| 1個あたり単価 | 数量が増えても大きくは下がらない | 数量が増えるほど安くなる |
| 製造開始までの期間 | 短い(データがあればすぐ) | 型の設計・製作に時間がかかる |
| 得意な数量 | 1個〜小ロット | 中〜大ロット |
| 形状の自由度 | 高い(複雑・中空も可) | 抜き勾配など型の制約あり |
損益分岐点の考え方
どちらが安いかは、「初期費用の差を、1個あたり単価の差で何個ぶん取り返せるか」で決まります。金型は初期費用が大きい代わりに単価が安いため、数量が一定ラインを超えたところで3Dプリント直接造形より総コストが安くなります。この交差点が損益分岐点です。
考え方はシンプルです。
- 少量(試作〜数十個程度):初期費用のかからない3Dプリント直接造形が有利
- 中量(数個〜数百個規模):3Dプリント製の樹脂型+小型射出成形機や、マスターモデルを使った真空注型(シリコン型)という中間解も有効
- 大量(数千〜数万個以上):単価の安い従来の金型(簡易金型・量産金型)が有利
正確な分岐点は、製品サイズ・形状・材料・依頼先によって変わります。迷ったら、直接造形の見積りと金型見積りの両方を取り、数量ごとの総コストで比較するのが確実です。
数量・目的別のおすすめ早見表
| 目的・数量の目安 | おすすめの方法 | 費用のポイント |
|---|---|---|
| 試作・デザイン確認(1〜数個) | 3Dプリント直接造形 | 型代ゼロ・最短で現物化 |
| 同じ形状の少量複製(数個〜数十個) | 真空注型(シリコン型)/3Dプリント製 樹脂型 | マスターモデルを流用し複製コストを抑える |
| 小ロット生産(数十〜数百個) | 3Dプリント製 樹脂型/簡易金型 | 初期費用を抑えつつ量に対応 |
| 中ロット生産(数百〜数千個) | 簡易金型(アルミ・樹脂型) | 量産金型より安い初期費用 |
| 量産(数千〜数万個以上) | 量産金型(射出成形) | 単価が最も安くなる |
3Dプリンターと金型の費用を抑える5つのコツ
金型費用・造形費用は、依頼の仕方や設計で大きく変わります。次の5点を押さえると、無駄なコストを抑えられます。
- 数量に合った方法を選ぶ:少量なら直接造形、量産なら金型と、数量に応じて最適な工法を選ぶ。迷ったら両方見積もる。
- 設計を最適化する:肉厚を均一にする、不要な中空・サポートを減らす、サイズを必要最小限にすることで材料費・後加工費を抑える。
- 段階的に進める:いきなり量産金型を作らず、まず直接造形で試作→次に樹脂型で小ロット検証→数量が固まってから量産金型、と段階を踏むと初期投資のムダを防げる。
- 後加工を必要な範囲に絞る:研磨・塗装などの追加工は品質に直結する一方で費用も増える。用途に必要な仕上げレベルを見極める。
- オンライン見積りを活用する:自動見積りサービスなら、形状ごとの費用をその場で比較でき、方法選定の判断材料になる。
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よくある質問(FAQ)
Q. 3Dプリンターで作った簡易型(樹脂型/金型)で射出成形はできますか?
はい、できます。耐熱性のある樹脂で型を造形し、小型射出成形機を使えば射出成形が可能です。ただし型の寿命は扱う樹脂によって異なり、扱いやすい樹脂ならおおむね数百個程度が目安です。数万個以上を安定生産する場合は、金属製の金型が適しています。
Q. 3Dプリンターの簡易型(樹脂型/金型)費用は従来の簡易型(樹脂型/金型)よりどのくらい安いですか?
3Dプリント製の樹脂型は、型の製作費を従来のアルミ・鋼の金型より大きく抑えられます。従来の簡易型が数十万〜300万円程度なのに対し、樹脂型は内容によってはるかに低い費用で用意できるケースもあります。ただし寿命や耐熱性で制約があるため、数量と用途に応じた選択が必要です。
Q. 少量だけ欲しい場合、金型と直接造形どちらが安いですか?
数個〜数十個程度の少量であれば、初期費用(型代)がかからない3Dプリント直接造形の方が安くなるのが一般的です。数量が増えるほど金型の単価メリットが効いてくるため、生産数量で判断します。
Q. 3Dプリンターで作れる型にはどんな種類がありますか?
主に、樹脂で直接作る簡易的な射出成形型(樹脂型)、製品原型(マスターモデル)を造形して真空注型や電鋳で反転する方式、金型に組み込む入れ子や治具の3タイプがあります。入れ子など複雑な形状は、樹脂だけでなくアルミやステンレス(SUS)の金属造形で作る場合もあります。用途と数量で使い分けます。
Q. まず何から相談すればよいですか?
作りたい形状・数量・用途(試作か小ロットか量産か)を整理したうえで、直接造形の見積りを取るのがおすすめです。数量が多い場合や量産を見据える場合は、金型を含めた工法の相談も並行すると、総コストで最適な方法を選べます。
Q. 3Dプリンターは金型の修正にも使えますか?
使えます。型を削る「削り方向」の修正は従来の切削加工が向きますが、型に肉を足す「盛り方向」の修正では、足したい部分を3Dプリンターで入れ子として造形し、型に組み込んで対応する方法があります。新規の型製作だけでなく、既存金型の部分的な補修にも活用できます。
まとめ
3Dプリンターの金型費用は、「簡易型(樹脂型/金型)そのものを3Dプリンターで作る費用」と「簡易型(樹脂型/金型)を作らず直接造形する費用」の2つに分けて考えると整理できます。ポイントは次のとおりです。
- 従来の金型は初期費用が大きく、少量生産では1個あたりの負担が重くなる
- 3Dプリント製の樹脂型は、型の製作費と納期を大きく抑えられる(寿命・耐熱に制約あり)
- 金型を作らず直接造形すれば初期費用はほぼゼロ。少量ほど有利
- どちらが安いかは生産数量で決まる。損益分岐点を数量で判断する
- 迷ったら、直接造形の見積りと金型見積りを比較するのが確実
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